東京高等裁判所 昭和31年(う)2325号 判決
被告人 定方フジ
〔抄 録〕
なお、所論は「原判決が証拠に採用した『近藤荒樹作成の定方フジとの手形取引に関する計算明細書』については、原審公判廷で検察官から同書面が提出された際、被告人は右書面を証拠とすることに同意しなかつたにもかかわらず、これを証拠に採用したのは採証の法則に反するものである。」と主張している。そこで調査すると、前記書面は昭和二七年七月一〇日の原審第三回公判期日に、検察官から他の三十二通の書証と共に提出されたところ、弁護人はそれに同意するかどうか意見を留保した上、同年九月二日の第四回公判期日において、その内八通の書証についてのみこれを証拠とすることに同意したこと、ならびに本件書面はその八通の中に含まれていたので、裁判所は直ちにその証拠調をしたことが認められる。而して前記各公判調書附属の証拠関係カードの記載をみると「証拠の標目及び立証趣旨」の欄の下に「同意不同意の別」という欄が設けられているが、それには単に「同意」もしくは「不同意」あるいは「留保」と記載されているだけで、その意思表示の主体は全然記載されていないので、検察官提出の証拠に対して意見を述べた者は弁護人であるか、被告人であるか、これを知る由がないけれども、訴訟手続の運営の実状からみると、特に表意者の記載がない場合は弁護人が自己ならびに被告人の意見を代理して陳述したものと解するのを相当とするところ、叙上のような本件訴訟の経過からみると、弁護人は第三回公判期日から第四回公判期日までの間において、被告人本人の意見を十分に徴した上で、同意、不同意の意見を述べたものと推測されるばかりでなく、第四回公判調書には、被告人が弁護人の意見に反し、これを証拠とすることについて異議を述べた事実は全然記載されていないことなどから考えると、右書面を証拠とするについては、弁護人は勿論、被告人においてもこれを同意していたものと認めるのを相当とする。従つて原判決が右書証を証拠に採用したのは正当であつて毫も違法なところはない。所論援用にかかる判例は本件に適切ではなく本論旨は理由がない。
(花輪 山本 下関)